賃貸借契約の終了時における「原状回復」は、賃借人と賃貸人の間でトラブルが生じやすい代表的なテーマの一つです。特に居住用建物では契約期間が長期に及ぶことが多く、入居時と退去時の物件状況に関する記憶や認識のズレが、修繕範囲や費用負担をめぐる紛争に発展するケースが少なくありません。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、原状回復を「賃借人の居住・使用により発生した建物価値の減少のうち、故意・過失・善管注意義務違反、または通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しています。つまり、経年変化や通常使用による損耗は賃料に含まれるものであり、賃借人が負担すべき修繕費用とは明確に区別されるべきです。
しかしながら、こうした原則があっても、実務の現場では「どこまでが通常損耗か」「どの傷が誰の責任か」といった判断が曖昧になりがちです。そこで宅建業者には、契約当事者間の認識を明確化し、トラブルを未然に防止するための実務対応が強く求められます。
- 物件の状態を確認する
入居時および退去時には、壁・床・設備などの状態を部位別に点検し、損耗の有無や程度を記録します。 - チェックリストを作成する
確認内容はチェックリストにまとめ、貸主・借主双方が立ち会いのうえ署名することで、認識の一致を図ります。 - 視覚的な記録手段を併用する
損耗箇所や程度については、平面図への記入や写真・動画の撮影など、視覚的な手段を併用することで、後日の認識の差を最小限に抑えます。 - 記録を契約書類とともに保存する
作成したチェックリストや画像データは、契約書類と一体で保存し、退去時の原状回復費用の根拠資料として活用できるよう管理します。
これらの記録は、万一トラブルが訴訟等に発展した場合にも、事実関係を証明する有力な証拠資料となり得ます。宅建業者は、物件確認のプロセスを単なる形式的手続きとせず、信頼構築と紛争予防の要として位置づけ、実務に反映させることが重要です。
原状回復をめぐるトラブルは、対応の「質」と「記録の有無」によって結果が大きく変わります。宅建業者としての信頼を高めるためにも、こうした基本的な対応を徹底し、安心・公正な賃貸取引の実現に貢献していきましょう。
