不動産特定共同事業者や金融商品取引業者には、「顧客の最善の利益を勘案した誠実かつ公正な業務遂行」が法令上の義務として課されています(金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律第2条)。
この「最善の利益」とは、単に目先の利益や形式的な条件の良さを意味するものではありません。
短期的・形式的な利益に偏らず、長期的・実質的な価値を見極めることが求められるのです。
金融庁のパブリックコメント回答(2024年10月30日)によれば、「短期的・形式的な意味での利益」とは、例えば「顧客にとって目先の経済的な利益を生じ得るが長期的にみたときには顧客に不利益となる可能性がある場合の当該経済的な利益や機械的な計算に基づく経済的な利益等」と想定されているということです。
よって、「顧客の最善の利益」とは、こうした短期的・形式的な意味での利益に限らない実質的な意味での利益を指します。
営業担当者は、単に「条件が良い」「利回りが高い」といった表面的な説明ではなく、顧客の将来にとって本当に意味のある選択肢かどうかを見極め、冷静に提案する姿勢が求められます。
この「顧客の最善の利益を勘案した誠実公正義務」は、不動産特定共同事業者や金融商品取引業者に対して直接課されるものですが、宅地建物取引業者にとっても無関係ではありません。
物件紹介・契約条件の説明・リスクの明示・アフター対応など、宅建業務のあらゆる場面において、顧客の実質的な利益を勘案した誠実・公正な対応が求められます。
- 将来的な修繕負担や管理体制まで含めて説明する
- 利便性だけでなく、生活環境や地域特性も伝える
- 「売るための説明」ではなく、「納得して選んでもらう説明」を心がける
これらはすべて、信頼構築とコンプライアンスの両立を実現するための基本姿勢です。
「顧客の最善の利益」とは、目先の条件や数字ではなく、顧客の将来にとって本当に意味のある選択肢を提示することです。
営業担当者は、表面的な魅力にとらわれず、顧客の目的・状況・価値観に照らして、長期的・実質的な利益を見極める力を磨くことが、信頼される宅建業者への第一歩です。
