宅地建物取引業者(宅建業者)は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実に業務を行うことが求められています。
その中でも、高齢者との取引は、意思能力・理解力・聴覚・生活状況などに個人差が大きく、画一的な説明では対応しきれない領域です。
営業担当者には、「誰に対して説明するか」を踏まえた柔軟な対応力と、顧客保護を前提としたコンプライアンス意識が求められます。
国土交通省や都道府県の宅地建物取引業法主管部局が対応した苦情・紛争相談の中でも、「重要事項説明等(不告知を含む)」が最も多い原因となっています。
その多くが、説明の不備や理解不足によるトラブルであり、高齢者との取引では特に慎重な対応が求められることが明らかです。
民法では、契約は意思能力を有する者によって締結されなければなりません。
高齢者が認知症などにより契約時点で意思能力を欠いていた場合、その契約は「無効」と判断される可能性があります。
- 家族や施設職員など関係者からのヒアリング
- 本人との面談による反応・理解度・意思表示の一貫性の観察
- 「理解しているか」ではなく「理解できる状態か」の見極め
- 成年後見制度の活用を含む、適切な助言と促し
これらはすべて、契約の安全性と顧客保護を両立させるためのコンプライアンス対応です。
加齢に伴う聴覚の変化や認知の特性により、説明の仕方にも配慮が必要です。
宅建業者としての説明義務を果たすためには、以下のような工夫が求められます。
- 落ち着いた声で、ゆっくり・はっきりと話す
- 専門用語を避け、平易な言葉で説明する
- 図面・写真などを活用し、視覚的に理解しやすくする
- 家族の同席を促し、説明記録を保全する
これらは単なる接客マナーではなく、説明義務と顧客保護義務を果たすためのコンプライアンス対応です。
理解が不十分なまま契約が進めば、「聞いていない」「知らなかった」といったクレームやトラブルにつながるリスクがあります。
高齢者との取引では、意思能力の確認・説明方法の工夫・記録の保全など、顧客属性に応じたコンプライアンス対応が不可欠です。
営業担当者は、「説明したか」ではなく「理解されたか」、そして「理解できる状態だったか」を基準に対応することが、信頼される宅建業者への第一歩です。
