今回のコラムでは、宅地建物取引業(宅建業)の名義貸しに関わる最高裁判例(令和3年6月29日)を紹介いたします。
(事案の概要)
宅地建物取引業者(宅建業者)Yは、無免許者Xとの間で「名義貸し料300万円」の合意を交わし、XがYの名義を使って不動産の購入・転売を実行。Xは約2,600万円の収益を得た後、合意に基づきYに利益分配を求めましたが、Yは納得せず一部のみ支払い。Xは残額の支払いを求めて提訴し、Yは反訴しました。
(裁判所の判断)
最高裁は以下のように判断しました。(以下、最高裁判決文より抜粋)
宅建業者が無免許者にその名義を貸し、無免許者が当該名義を用いて宅建業を営む行為は、同法12条1項及び13条1項に違反し、同法の採用する免許制度を潜脱するものであって、反社会性の強いものというべきである。そうすると、無免許者が宅建業を営むために宅建業者との間でするその名義を借りる旨の合意は、同法12条1項及び13条1項の趣旨に反し、公序良俗に反するものであり、これと併せて、宅建業者の名義を借りてされた取引による利益を分配する旨の合意がされた場合、当該合意は、名義を借りる旨の合意と一体のものとみるべきである。
したがって、無免許者が宅建業を営むために宅建業者からその名義を借り、当該名義を借りてされた取引による利益を両者で分配する旨の合意は、同法12条1項及び13条1項の趣旨に反するものとして、公序良俗に反し、無効である。
(解説)
高額で取引される不動産取引において、業者を一定の基準で審査し免許を与えることで、不正な取引を防止し、消費者の保護を図ろうというのが宅建免許制度の目的です。
このため、免許を受けていない者は宅建業を営んではならず(宅建業法第12条第1項)、これに違反した者には罰則が科せられることとされています。
ところが、免許を受けた宅建業者が無免許者に対して自己の名義を貸してしまうと、免許制度を作った意味がなくなってしまいます。
このため、宅建業法では、宅建業者による名義貸しについても禁止しています(宅建業法第13条第1項)。
今回の最高裁判例では、名義貸しは「免許制度を潜脱するものであって、反社会性の強いもの」と断じています。
そのうえで、「宅建業者の名義を借りてされた取引による利益を分配する旨の合意」は「無免許者が宅建業を営むために宅建業者との間でするその名義を借りる旨の合意」と一体のものとみるべきであり、公序良俗に反し無効としました。
宅建業の信頼は、制度の厳格な運用によって支えられています。
名義貸しは、その信頼を根本から揺るがす行為であり、重大なコンプライアンス違反であることを、すべての宅建業者が認識すべきです。
